Taihei Asakawa Trio
Touch of Winter
2013年12月11日  2500円+消費税  DMCD-26
 Touch of Winter【曲解説】
 
北で育った私がこのようなタイトルでアルバムを制作することになったのは、最近父を亡くし冬の記憶を巡らせることも多かったので、それはごく自然なことだった。
ここには私の中の雪のような白い世界で空間を彫り作られた10の作品が並んでいる。
 
1. Opening
前からイメージはしていたものの、実は今回のメンバーである安ヵ川さん則武さんと三人で音を出すのはこの日が初めてであった。スケッチ程度のメモのみのほぼ即興で彩られたこの白い世界は、録音でも一番最初に演奏したため、文字どおりのオープニングでアルバムの幕開けにふさわしいものとなった。
 
2. Dream Garden
特定のメロディーは作らず、少し変わったハーモニーの組み合わせでできた音の\"庭\"をベースに、即興演奏と相まって、夢のような可視化された映像的な音を意識して作られた。映画にも似たこの多義性は、別にオーケストラバージョンもありそれもいつか演奏したいと思っている。
 
3. Sadtrack
2012年のある日、父の余命を主治医より聞かされ、無力感に苛まれながら書いた曲。ここには喪失の白が続いている。二部構成となっており、前半は淡々と、後半は刻々と。ちなみに父は余命をはるか越えて生きてくれた。最期に父が慣れ親しんできたシャンソンを一緒に聴いた。その時、父が少し笑った気がした。
 
4. Last Flower
僕らはみんな一人一人が絶滅危惧種である。誕生と同時に最後でもある。そしてそれは音も同じ。秘する花の如く佇み呼吸をしているのである。長い長い旅の途中で人は花を知り花を失う。花は心。音は心。
 
5. Strings
ピアノはイメージを外化させてくれる最も近い存在。打楽器であることを忘れ、弦楽器であることを忘れたとき、そこにはサウンドが訪れ、はじまりも終わりもない世界を見せてくれる。そして気がつけばいつも調性の海のなかにピンと張った一本の弦に思いを馳せる。
 
6. Cold Sun
白い無常観が私を通り過ぎたとき、目に留まるのはいつも太陽だった。明日はなく今あるのみ、と太陽は語りかけ、影追う私に光を照らす。瞬時の沈黙の中で訪れる二つのソノリティーが枯れた枝に実一つ。
 
7. Distance
冬になると魂は遥か遠い実在に憧れ、雪の狭間に潜む郷愁に居場所を求める。蛇行するクリシェ、あてどなく彷徨うメロディーは、様々な曲線を描きながら白の中に白を塗り続けるのである。
 
8. Home
2011年3月11日、言葉を失った。その日の深夜にこの曲を書いた。左手の繰り返されるFの音は心臓の鼓動。それは故郷を失った人たちの、そして命を失った人たちの。鼓動は無常をやさしく包み込み、今日も祈りを捧げる。
 
9. みみをすます
父を亡くし、しばらくは曲を書けなかった。直後に安ヵ川さんとのデュオライブがあり、その時のベースの音色が耳に残っていて、一ヶ月後のある日にこの曲を書いた。みみをすます、それは人間の最初の祈りなのかもしれない。
 
10. Smoke
アメリカの作家ポールオースターの\"Smoke & Blue in the Face\"という作品のクリスマスのエピソードにインスパイアされて書いた曲。煙の如く刹那な音は、遥か遠くの記憶に投げかけ白い闇の中へ。
 
存在の深淵にこの音のあらんことを。
 
浅川太平