堀 秀彰
In my words
2010年5月15日  ¥2.500.-  DMCD-06

1 .This is New (Kurt Weil)
2 .Black Mist (Hideaki Hori)
3 .Form (Hideaki Hori)
4 .Take The A Train (Billy Strayhorn)
5 .Like A Keystone (Hideaki Hori)
6 .Puppy Walk (Hideaki Hori)
7 .Winter Waltz (Hideaki Hori)
8 .So Near , So Far (Tony Crombie)
9. Another "Words" (Hideaki Hori)

 

 ピアノ・トリオは好きですか?

 

多くの人が「はい」と答えるだろう。特に日本人はピアノ・トリオが大好きだ。今も昔もジャズの入門書にはビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビー』が載っているし、硬派なジャズ・ファンはバド・パウエルの「ウン・ポコ・ロコ」3連発に悶絶し、オスカー・ピーターソンの豪快なグルーヴに身を委ね、キース・ジャレットのうなり声の向こうにメロディの桃源郷を望む。

 

そんなピアノ・トリオ大好きなジャズ・ファン待望のアルバムが本作である。

 

堀秀彰の単独名義としては3作目にあたる本アルバムは、驚くことに初の全曲ピアノ・トリオ・アルバムだ。
デビュー作『Horizon』にはテナーの河村英樹が、2作目『Moving Scenes』にはテナーの山口真文とギターの滝野聡が参加していた。もちろんピアノ・トリオでのトラックも収録されていたがホーン入りの曲が目立つのは当然のことである。テナーの浜崎航との双頭コンボEncounter名義では『Encounter』『Signs & Wonders』『Nature Of Mind』の3作がリリースされており、当然ながらワンホーン・カルテット編成だ。普段のライブではEncounterと並行して自身のピアノ・トリオでの活動も行っているので、ファンからすればトリオという編成になんら違和感はなく、待ちに待ったトリオ・アルバムの登場である。

 

 今回のアルバムは普段のレギュラートリオではなく安ヵ川大樹(b)とジーン・ジャクソン(ds)というレコーディング用の特別編成である。
安ヵ川は堀の参加しているFar East Jazz Ensemble(FEJE)のリーダーであり、堀のプレイをよく理解したベーシスト。ハービー・ハンコックとの共演でも知られるジーン・ジャクソンの参加はこのアルバムの目玉の一つだ。日米の重量級メンバーを従えて堀秀彰のピアノはいい意味で軽快だ。パワフルに迫ってくるかと予想していたら、肩の力が抜けたリラックスした軽やかな感じでピアノを歌わせている。例えるなら排気量の大きい高級セダンで心地よくクルーズするイメージだ。アクセルを踏み込めばいくらでも加速できるが、余裕を残しながら快適に加速するあの感覚。高性能スポーツカーを乗り回すのとは違うのである。安ヵ川の安定感抜群のベースと、ジーン・ジャクソンの硬軟自在の剛腕ドラムは、まさに高級車のエンジンとサスペンションのようにしなやかだ。

 

高級セダンを堀がどう乗りこなしているか、各曲を簡単に紹介しよう。

 

1.This Is New
クルト・ワイル作曲の通好みなスタンダードだが、速めのテンポにアレンジされた演奏を一聴して僕は堀のオリジナルだと勘違いしてしまった。それくらい自分の音楽として表現しているということであり、アルバムを象徴する見事なオープナーだ。

 

2.Black Mist
堀が安ヵ川大樹をイメージして作ったオリジナル。安ヵ川のメロディアスなベースソロが大きくフィーチャーされている。ベースソロが終わり、待ち切れずに飛び出すピアノソロの出だしは何度聞いてもわくわくする。

 

3.Form
ジーン・ジャクソンをイメージして作ったオリジナル。ミディアム・スローのダークな曲調は堀の今までのコンポジションにないものであり、彼の新たな一面が出たこのアルバム一番の注目曲。難しいミディアム・スローのテンポをレイドバックした感じでグルーヴさせるジーン・ジャクソンのドラムが圧巻。後半のタメにタメたドラムソロは、堀いわく「酔拳のようだ」。

 

4.Take The A Train
説明不要の有名なエリントン・ナンバー。あの定番イントロを使わずにスピーディーなアレンジとピアノプレイで一気に聞かせる。快速列車のように軽快で、この有名曲に新たな魅力を付け加えている。

5.Like A Keystone
堀のオリジナル。静かな始まりからじわじわと盛り上がる高揚感が見事な曲で、テンポが上がる瞬間のスリルがたまらない。安ヵ川のベースソロ、ジーン・ジャクソンの繊細かつグルーヴィーなドラミングとトリオの一体感が素晴らしい。

 

6.Puppy Walk
軽快にスイングする堀のオリジナル。跳ねるようなリズムで美味しいスイング・フレーズをふりまくピアノが実に楽しい。タイトル通り仔犬が飛び跳ねて歩くようなハッピーな曲だ。

 

7.Winter Waltz
Signs & Wonders』で演奏されていた美しい堀のオリジナルの再演。ライブの定番としてファンの間でも人気が高く、いかにも堀秀彰というイメージの曲。雪のように舞う美しいピアノと繊細なブラシ・ワークの絡みが見事だ。『Signs & Wonders』での演奏とぜひ聞き比べてほしい。

 

8.So Near, So Far
マイルス・デイビスの演奏で有名なスタンダード。1曲目のThis is Newといいスタンダードのチョイスが渋い。ミディアム・ファーストでたたみ掛けるようにスイングするピアノが圧巻。

 

9.Another "Words"
アルバムのラストを飾るこの曲は堀自身の解説を引用しよう。
「僕の1stアルバムの中にThe Words of Mr. Kenny K.と言う曲があり、これはピアニストKenny Kirklandに捧げた曲です。ケニーの楽曲を研究して、出来るだけ彼の語法(Words)に近い感じで作りました。実はその時に同時に書いていたもう1曲があり、それがこのAnother "Words"なのです。もうひとつのトリビュート曲です。」

 

 堀はこのアルバムについて次のように述べている。
Kenny Kirklandを始めとして、色々なアーティストに影響を受けてきましたが、その感謝の気持ちもこめて、アルバムタイトルを「In My Words」にしました。
自分自身の言葉で表現する。という意味です。

 

安ヵ川大樹氏とジーン・ジャクソン氏の参加なくして今回のアルバムの成功はあり得ませんでした。 心から感謝しています。」

 

 書き下ろしのオリジナル、人気曲をトリオで再演、絶妙な選曲とアレンジのスタンダードを程よく配置した曲順、全9曲で52分というちょうどいい収録時間。コンポーザー、アレンジャー、プロデューサーとして、堀秀彰というミュージシャンはどこまでも音楽全体が見えているなと改めて思う。
この素晴らしいピアノ・トリオ・アルバムを完成させたいま、堀秀彰の目にはどんな音楽が見えているのだろうか。次は高性能スポーツカーに乗るのかもしれない。気ままに自転車に乗ってふらりとどこかにいくかもしれない。
堀のことである、きっと視界は良好に違いない。

(星野利彦/音楽ライター)